◆待って曲がって◆
今と異なる趣の目貫通りがありました。柳並木のそんな通りがありました。
通りの名前はお決まりの銀座通りといいました。
車の流れも人の動きも賑やかで、車歩道分けるガードレールがありました。
当店と歩道を挟んで丸くて白いガードレールがありました。
手狭な店で忙しく働く母や兄姉を、ガードレールで待ちました。
小さなお下げの私には“白いお椅子”はお気に入り、お足揺らして待ちました。
やがて待つことも無く、時は過ぎて行きました。
或る日、お椅子の前に立ちました。 “白いお椅子”は無惨に曲がっておりました。
焼肉、馬刺、それに素朴な和食の味の店としてご利用の多い当店ですが、
このガードレールを曲げる程多くのお客様に愛されたホルモン煮込も欠かせません。
「この煮込なら食べられる」とおっしゃる特に女性のお客様、最近とみに増えてます。
「暑さ寒さを厭(いと)わずにあのガードレールに腰掛けて、空席待たれた
お客様、煮込の人気は健在です」
柳並木が伐られた頃に、ガードレールも無くなりました。遠い昔のお話です。