◆満帆(まんぱん)の風◆

 王者“黒毛和牛”向かうところ敵無し。しかし揺るぎなきかの、その実力の一角に
風穴開ける“異端児”がこの<ミノ>なのです。
異国の荒野で思う存分草をはみ、産を重ねてはぐくんだ健やかな身の厚さ。
えも言われぬ歯触りにさすがの王者も歯が立たず。でもその全てが焼肉に供せるもの
でもないのです。
そんな身の程知らぬ“異端児硬派”、それがじっくり煮込まれて小気味良い歯応えの
<牛ミノ旨煮>に生まれ変わるのです。
只、下火とは申せ、全てのお牛を巻き込んだ流行(はやり)風、逆風満帆吹きやられ
日本の港になかなか上陸出来ぬ“異端児”なのです。

「本日の上ミノ、上に値わず」と頭を抱え、あたふた、おろおろ。
そんな厨房さんを尻目に、さぁ、ここから私の出番。
さり気なく「済みません“春”盛り合わせの<上ミノ>切らしております」
「代わりに何かお好みの<上ホルモン>とか・・・」と流暢に続けるつもりが、
お客様
「あっ、そう、残念!何でも良ければ、代わりは<上ヒレ>」間髪入れぬご要望、
お見事!つい私も懐勘定差し置いて「承知しました。すぐご用意致します」
欠くべからざる<上のミノ>、たとえ代りが何であれ厨房さんとて拒みますまい。

                  “咎(とが)無き身の引き締まる 満帆の風”