◆時代の海にたゆたゆと◆
受け売りですが、かの”紫式部”もこよなく愛し、「七たび洗わば鯛の味」と言われる
魚偏に弱しと書く鰯。
歴史的スーパーレディーに愛されたとは微笑ましくも、頼もしい限りです。
ただ、七たび、とは、手の混んだ調理次第で美味くも、と言う意味なのか、
それとも鯛の味にはほど遠し、と言うことなのかは悩むところ。
熟練の手の指だけで捌ける程の華奢な鰯をそう何度も洗えば
「潰れちゃって“つみれ”に成るよ」と気を揉みます。
肉がメインの当店で唯一の魚がこの鰯。 保冷庫等の無い時代、或いは声を潜めて申し
ますなら“塩分控えめ”の一大シュプレヒコールと無縁(塩)の時代、<塩鰯>またの名
<塩蔵鰯>は、海から遠い古里の土地柄なのか、どの食卓でも極めて、重宝がられた味
でした。
「良く焼いて、一度湯通しして下さい」と、お客様。
お体を気遣いながらも懐かしい味を楽しむ、誠に理に適った召し上がり方なのです。
嘗て、私の祖母が好んだように、熱いお茶を注いでもその旨味が損なわれることは御座
いません。
麦飯には山芋とろろ、粟飯には<塩鰯>と、呼び親しまれたこの鰯、とりわけ真夏の
うだる暑さもこの塩味で戴けば食の進むこと請け合いです。
時代の逆潮故なのか
それとも昨今品薄のせいなのか、この<塩鰯> 只今メニューに記載無き“裏メニュー”。
時代が醸す潮に揉まれて、泳いだり、且つ潜んだりとりわけ小振り<塩鰯>